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3.【講演後の反響に対して】4/8


【ノンフィクションを書け】

 SF作家はもっとノンフィクションを書け、という提案については誤解もあったようだ。もちろんここで私がいっている「ノンフィクション」とは、科学ノンフィクションのことばかりではない。広い意味でエッセイやルポ・紀行文、対談集など、とにかく小説以外の出版活動を指す。作家の問題意識を小説の中に組み込んでゆくことはもちろんだが、そこからこぼれ落ちたものや、小説の体裁を取る以前のものも積極的に世に出してゆくべきだ、ということであり、また狭義のSF以外の分野と積極的にコミットしてゆく姿勢の重要性を述べているのである。SFには科学知識の共有が必須だなどと主張しているわけではない。

 SF業界は当初からファンとプロの間の敷居が低く、それこそセミナーやSF大会などのコンベンションで、両者が自由に議論する機会が多かったようだ。そういったライヴトークが一種のノンフィクションの役目を果たしてきたといえるのかもしれないが(近年ではウェブ掲示板での交流もこれに含まれるだろう) 、所詮はクローズドサークルでの議論であり、一般性に乏しい。仲間内だけで議論することと、一般読者を対象にエッセイを書くことは違う。講演でも述べたように、SFは小松左京のノンフィクションの仕事を再発見するべきだろう。

 なお、野田令子氏による「いまは普通の小説を書いている人がSFも書くことが多いのでは。その現状を自分から見ると、SFを書く人が普通の小説を書いているような気がする」との感覚はよくわからない。私がここでいっているのは、恩田陸や池上永一のような(一見SFの外部に位置する)作家のことではない。そのような作家は、残念ながら一般にはSF作家と認識されておらず、またSFを書いているとも思われていないのではないだろうか。


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