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3.【講演後の反響に対して】 7/8


【プロモーション】

 これまでのSFが抱えていたネガティヴイメージを払拭するためには、荒療治が必要と考える。そこで講演スライド 41 に示したように、各社・各作家が手を繋いでムーヴメントを起こすことを提案した。出版業界の慣習や思い込みを取り払い、新しい方向性を模索するのならば、やはりミステリーやホラーではなくSFでおこなうが望ましいと思う。

 だが、新しいムーヴメントを起こすにしても、取りまとめ役とそれなりの資金が必要である。両者は卵とニワトリの関係で、資金がなければ取りまとめもできず、とりまとめができなければ資金も集まらない。そこで私が提案したいのは、少なくとも最初のまとまった資金だけは私(瀬名秀明)が提供しようというものである。幸いにしてこれまでの印税は貯蓄してある。朝日新聞に全5段広告を出すには1500万円ほどが必要だと聞く。それなら瀬名が1500万円を提供しようというのである。これに続く宣伝展開は、各社が受け持ってほしい。だが最初に打ち出す広告、つまり出版社を超えたムーヴメントであることを読者に認識させる広告は、個人の寄付により提供しようというものだ。これなら出版社間のしがらみもなく、またリスクも少ないだろう。瀬名の寄付金は『パラサイト・イヴ』 『 BRAIN VALLEY 』の印税から賄う。いずれも一部のSFファンや科学者の心を深く傷つけ、SFファンとそうでない者のディスコミュニケーションを促してしまった不幸な小説である。 『パラサイト・イヴ』 『 BRA IN VALLEY 』で瀬名が儲 けたことに対して強い批判もあった。今回瀬名が寄附を出すことで、少しでも傷ついた人々に面白いSFを還元したいという心からの願いが込められている。そして、瀬名のイメージがプロモーションに染みつくことを嫌うSFファンが多いのなら、瀬名自身は完全な黒子に徹してもよいのである。

 ただし、このようなプロモーション展開のアイデアには、合宿企画で批判が多かった。 「SFはもともとはみ出し者のはずだったのに、なぜそんなことをしなければならないのか」といった発言や、あるいは野尻氏のように、 「中央集権的である」との考えがあったようだ。また先に記したように、野尻氏は 「現状のSF界でちっとも困っていないので、よしやろうという気にはなれなかった」 と述べている。

 SF界が、いまのままでよいというのであれば、もはや私の感知するところではない。今後、敬して遠ざけたいと思うだけだ。どうにかしたいと思うのなら、積極的にアイデアを出し合い、実行に移してゆくべきだろう。ウェブアンケートからは、残念ながらあまり有効なアイデアを得ることができなかった。やはりアイデアを立てて実行してゆくのは、出版者側の人々なのである。



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