山田正紀に「神狩り2」を
書かせ、
押井映画のノベライズを
アニメージュに連載させた
男、大野修一。

驚きの企画の数々は、
いかにして実現したか!?

■第1回:大野修一氏

(徳間書店・現「アニメージュ」編集長)

□ジャンル幻想の果てに

――:山田正紀さんにまつわるお話を伺いたいのですが
大野:「消えた『神狩り2』を探せ」?
――:ぐはっ、やっぱ消えてる!?
大野:いや、とりあえず'現在失踪中'ぐらいじゃあないのかなあ?
――:その件も含めて、ぜひ。まず大野さんは山田正紀さんの大ファンとか
大野:ファンファンファンファン。大ファン。大学2年の時、サークル(明治大学SF研)の機関紙でインタビューに行ったりもした。
――:「神狩り2」や「イノセンス」ノベライズが実現した経緯は?
大野:基本的な話をすると、僕は徳間に入って12年間マンガの編集者をしてきたんだけど、ちょうど〈日本SF新人賞〉の開始の時に文芸セクションに異動したんだよ。
 で、まず最初に作ったのが山田さんの徳間ノベルズ『SAKURA』。
 それから、しばらくしてドサクサにまぎれて《SF Japan》作ったり「デュアル文庫」作ったりするんだけど、その間ずうーっと山田さんをあおってたの。山田さん、日本SFの顔になりましょう、神輿なら儂が担ぎますけェ、って。
 SF冬の時代とかクズ論争とかって、僕は全然当事者じゃあなかったけど、SFのイメージが曖昧になってきているとはずっと思っていた。それはやっぱり、《中心》と言うべきものがなくなっているからで、その場所には山田さんが座るのが一番判りやすいと思っていた。とにかくジャンルが活性化することによって、幻想が育まれるし、そのためには具体的な何か──作品が必要不可欠でしょう。で山田さんに、つきましては『神狩り』の続編を書きませんかって、言ってみたんだな。
――:い、いきなり大胆な……


□「神狩り2」のゆくえ

大野:それで結構しつこく話をふっていたら、何度か嫌な顔された(笑)。でも、みんなに「おっ!?」と思わせるのは何か、といったら『神狩り2』だよな、って。
――:そんなの恐ろしくてフツウ考えつかない企画です
大野:ビックリするじゃない、みんな。なにより俺が読みたいし。状況としては、なるべくSFに注目を集めたかった。山田作品て影響力あるじゃないですか、SFに限らず、エンタテインメントをやっている若手クリエイターたちからリスペクトされている存在でしょう。
 そこへ突然『神狩り2』が出る。いろんな意味で評判になるし、推薦文なんか山ほど取れるなとか、書評が山ほどでるなとか、編集者としての計算もあったし。でもいったんは諦めかけてたんだよね。
――:なぜ?
大野:一度、優しくたしなめられたのよ、「僕は気にしないほうだけど、作家に昔の作品みたいなものとか昔の作品の続編をというのは、失礼にあたるし怒る人もいるから気をつけたほうがいいよ、大野くん」って。
 でもまあ諦めきれずに、様子を見ながら話題にのせてたら、ある時に「やってもいいよ」と山田さんが言ってくれた。結局2年ぐらいかかったのかな? で、《SF Japan》Vol.04号で〈山田正紀特集〉を組んだのがおととしの春。そこで、第1章・200枚を掲載して――。
――:"2002年9月刊行予定!"と広告をうって
大野:その後すぐ、ぼくは文芸から「アニメージュ」に異動してしまった。それで失踪して、捜査願いが各方面から出てる(笑)。SFセミナーとか。


□そして「イノセンス」へ

――:そして『神狩り2』より先に『イノセンス After The Long Goodbye』が出たわけですが、これはどんなふうに実現を?
大野:押井さんと山田さんがはじめて会ったのが、その《SF Japan》Vol.04号の〈山田正紀特集〉での対談なんだけど、お二人が凄くシンクロしていたんですよ。
 それから運命の悪戯で僕は「アニメージュ」に移ってしまった。で、押井さんがつくってる「攻殻機動隊2」に徳間が出資すると聞いたとき、それはもう山田さんしかいまい、と。
――:ノベライズといえば、先行して神林長平版『ラーゼフォン』が
大野:うん、あれが受けたのに味をしめてたということもある。とにかくワタシ、受けたいから(笑)。
 方針は決まったんで、あとは山田さんに了解をもらうことだけ。山田さんは偏見という言葉とは程遠い人で、マンガやアニメにも興味を持っていてくれたから、大丈夫かなと思っていたんだけどね。
――:すんなり受けてくださった?
大野:さっき話にでた『ラーゼフォン』の反響とかも山田さんは興味をもっていて、面白そうだしやってもいいよ、と。
 それで、押井さんに「山田さんがやってもいいって言ってるんですけど」と伝えると。「え……すごく嬉しい!」。打ち合わせでも、押井さんは「何書いてくださっても結構です」って言ってくれて。あとは順風満帆。


□中年と犬

――:それがアニメージュで連載になったのは?
大野:単純に時間の問題。最初は『神狩り2』が出来たらその後書き下ろしで、という話だったんだけど、いつまでたっても出来そうにない。邪魔するのは嫌だったんだけど、じゃあ連載ということになった。
 だけどこの間、結構な数の人に「『神狩り2』どうなったんですか」っていろんなところで、まるで僕が邪魔しているかのように言われるのが(笑)つらかったなあ、……とくに押井監督、あなたに言われたら私はどうしたらいいんですか。まあそれは置いておいて。
 連載分に原稿160枚くらい加筆して、なんとか劇場公開に間に合いました。
――:その山田正紀版『イノセンス』、読みどころは
大野:小説は、『イノセンス』の前日譚。映画は、草薙素子がいなくなって3年後の話だけど、その直前にこんな事件があったんではなかろうか、という話。押井守的イコン、ギミックを多用しながら、完全にオリジナルな山田正紀の小説になってます!
 ちなみに、サブタイトルの〈After The Long Goodbye〉は〈A Man and His Dog〉、つまり〈中年と犬〉とどちらにしようか迷った結果の選択です。
――:それもイイ! 今後も期待します、ありがとうございました
2004.2.18取材)


取材・構成/尾山ノルマ(SFセミナースタッフ)
コーディネート/牧紀子





■大野修一氏プロフィール■
おおの・しゅういち 1964年生まれ。明治大学SF研出身・流しのSFファン。大学卒業後(株)徳間書店に就職、「少年キャプテン」「Chara」等マンガ雑誌の編集者を十年以上務め、文芸セクションへ異動、雑誌「SF Japan」、〈徳間デュアル文庫〉を立ち上げる。メディアを越えて多彩なジャンルのカルチャーシーンに詳しく、独自の編集センスで活躍、気づくと今や「アニメージュ」名物編集長に。大森望氏談「いちばん変なやつだと思っていた」(『文学賞メッタ斬り!』(PARCO出版) より)。

「神狩り2」掲載号
《SFJapan》Vol.04

「イノセンス」
山田正紀著(徳間書店)